「感動で号泣してみたい」と、離人症の漫画に描いたことがあった。
実はだんだん、たびたび号泣できるようになってきた。主に「不安という感情を表現したコンテンツ」に共感して泣いている。それが今いち「自分が号泣してる」という感じがしないだけで。
ディズニーをたまに観るようになったのはアナ雪からである。アナ雪が思いっきりトラウマについてのストーリー(原題『FROZEN』だし)で、それで泣けた。「私、ディズニーで泣けるんじゃね?」というのに気づいた。
先日、インサイド・ヘッド2を見た。ヨロコビとかカナシミといった感情たちが脳内で奮闘するお話だ。インサイド・ヘッド2の感想なんかこの世に溢れてると思うので、個人的に言いたいポイントだけ言う。
なお、がっつりネタバレがあります。
---------------------------(以下ネタバレあり)-----------------------------------
ストーリー
主人公の女の子ライリーの脳内には、いろんな感情たちがいる。ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリ。
今作では、13歳になったライリーに「大人の感情たち」が芽生え、シンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシが加わる。いろいろあって、シンパイは古株の4人を脳内司令部から追い出してしまう。
それまではヨロコビが司令塔だったが、シンパイがそれにとってかわる。シンパイはライリーに起こるいろんな心配事を予想してテキパキとショックに備える。
そのうちシンパイは暴走してしまい、ライリーにパニック発作を起こしてしまう。そしてシンパイ本人はフリーズしてしまう(動きが速すぎて止まってるように見えてる)。
そこになんとか帰ってきたヨロコビたちがシンパイのフリーズ状態を止める。なんやかんやあって、ライリーは新たに自己形成し、「ポジティブもネガティブも入り乱れた複雑な感情こそが自分らしさ」だと受け止め、ひとつ成長する。というお話。
ちなみに前作から「イカリとムカムカって何が違うのよ?」と思ってたが、英語名だとイカリはAnger(怒り)、ムカムカはDisgust(嫌悪)らしい。たしかにムカムカは嫌いな野菜にオェッって言ってた。だから、不潔や有害なものを遠ざけてくれる係なんだろう。「キモ」に改名したら一番しっくりくるね。
登場人物、しっかりウザい
キャラへの馴染めなさ
まず、この作品のキャラ造形はいかにもアメリカテイストでわんぱくポップ、アンバランスさとちょっとの不気味さがあり、全体的にあまり日本人ウケする感じではないと思う(個人の感想)。
そんでこの作品の「感情」たちは、第一印象、内面でも刺さりにくい。ウザいからだ。しかしこのウザさが後のギャップを生む大切な要素なのだ。
「ヨロコビ」は”元気の押し売り”
押しつけがましいポジティブ、ハイテンション。それがヨロコビである。ポジティブにいこうよ!ネガティブは良くないよ!みたいな感じでいつも迫られると誰でも疲れると思う。この人、デリカシーないのかな・・・と思わされる。
「カナシミ」は足手まといすぎる
カナシミは見ててイラつくほど卑屈で、大げさに泣いて床に突っ伏してると思いきや、いざ行動すると余計なことしてトラブルを起こす。カナシミがヨロコビの邪魔をしなければ主人公がハッピーのままでいられた場面がいくつもあった。
「シンパイ」はウザさの代表格
まず、この子の見た目は多分あえてウザっぽさを意識して作っているんじゃないか? 目をひん剥いてニタニタしている。ヨロコビも引くハイテンション。いろいろとうるさい。悪気がないのになんとなく嫌われちゃってる人って感じ。
「私はいい人」と自画自賛してる主人公
主人公のライリーちゃん可愛い。可愛いけど、脳内に咲く一本の「ジブンラシサの花」というオブジェからは「私はいい人!」という自己認識がライリーの声で再生される。
「ジブンラシサの花」とは、ライリーの信念を形成する記憶や感情を収めた自己認識の花らしい。
「私はいい人!」と自信満々に思ってる主人公というのは感情移入しにくい。だって普通、主人公ってのはそんなこと口にしないからだ。
ウザさには理由があった
「ヨロコビ」のポジションが抱える重圧
実はこの作品、労働力としての感情キャラは、ヨロコビが唯一のポジティブ感情で、あとは皆ネガティブ感情なのだ。
指令にあまり強く関係しないキャラなら非ネガティブの子たちもいる。「イイナー」は「イイナー」ってなるだけでそこまで影響力がない。そして「ナツカシ」というサブキャラの感情がいるが、この人はただ何かを懐かしがってるだけだ(本当はもっと歳を重ねてから出てくるべき感情らしいが、気が早くてたまに奥の部屋から出てきちゃうのだ)。
これらを労働力ではないとみなすと、唯一ヨロコビだけがポジティブ側として頑張ってるのだ。そして司令塔である。元気でいなければならない、ライリーの人生を導かなければならないという重圧。そこからたまに発動するカラ元気。
今作では皆に文句を言われて耐えきれなくなり怒りを爆発させる場面があった。そのときイカリだけがそれを見てニヤついてたのが個人的に好きな描写だった。イカリは「本性見たり…」とでも言いたそうな表情をしていた。
「カナシミ」の卑屈さの必要性
前作ではライリーの幸せで大切な思い出の塊に手で触れてしまい、悲しみの思い出に変えてしまうという超絶な邪魔したカナシミ。「自分でもなぜそんなことやっちゃうのかわからない」というその行動は、実はライリーが気持ちの整理をするために必要なことだった。
「感情の抑圧」がテーマである本作品(知らんけど)では、悲しみは悲しみとしてちゃんと感じること、解放すること、という重要な教訓がある。前作ではライリーが自分の悲しみを抑え込んで、無感情のようになってしまった場面があった。
ライリーが抑え込んできた悲しさを両親の前でついに解放する場面は泣ける。ここで両親がきちんと受け止めてくれてるから物語は成立している。
人生、悲しい出来事には直面する。そのときに大事なのは、悲しい感情は誤魔化したり知らんぷりしたりせずにちゃんと悲しい感情として適切に処理すること。カナシミはその役目を担っているのだ。
「シンパイ」のウザさには不安と愛情が隠れていた
シンパイは今作の悪役と言っていい。時間にして9割くらいずっとウザい。しかし残りの1割、「こいつ泣かせるじゃん・・・」ってなる。これについては次章で語る。
「私はいい人」じゃいられなくなるリアル
最初は「私はいい人!」という自負があった主人公・ライリー。友達にも優しい!スポーツできる!なんでも一生懸命で真面目!でも、思春期になったライリーは友達に嫌な態度を取ってしまうし、ズルしようとするし、恥、罪悪感、自己嫌悪・・・それらに苛まれる。
本当によく作り込まれた話だな~と思うのは、最終的に「ポジティブもネガティブも、いろんなグチャグチャした思いや感情も、全部が自分! それらが集まってできたのが私らしさ!」という話だったということである。本質すぎる。まさに人生。
私も自分と人と比べて、劣等感まみれで、いろんなグチャグチャした感情や考えが出てきて頭がうるさいが、それらが自分というものを形成しているのだ。この長年のグチャグチャの組み合わせが人と全く同じになることなんて決してないだろう。
自分らしさとは、グチャグチャ感情のオリジナルレシピなのだ。
トラウマ民にぶっささる「シンパイ」の末路
シンパイがあんなに元気で笑ってる理由
私が本作品を鑑賞したときのツイート。↓
インサイドヘッド2観た。キャラの性格はネタバレじゃないので書くけど、新キャラの「シンパイ」は心配性の癖になぜあんな元気なんだと不思議に思ってた。が、あのテンションは神経のたかぶりを表してるのではないかと思った。それを象徴する出来事が物語で起こる。心配って、確かに神経昂ってるよね。
シンパイの英語名はAnxiety(不安、心配)。私が人生で初めて受けたメンタル疾患名はSAD(社交不安障害/ Social Anxiety Disorder)だったが、そのAnxietyである。古株キャラの「ビビリ」とどう違うの~と思っていたがビビリの英語名はFear(恐れ)。
ビビリは「物にぶつかると怖い」とか「高いところは怖い」とか原始的で物理的(プリミティブでフィジカル…)な恐怖の担当なんだろう。シンパイは「挑戦が失敗したらどうしよう」「仲間外れになったらどうしよう」など社会的な恐怖の担当。おそらく。
シンパイがオレンジ色な理由も、あんなに元気いっぱいな理由も、神経の昂りを表してるんじゃないかと思った。実際にライリーにパニック発作を起こしている。
そして、ネットで見つけた海外の人の感想で「シンパイの口角が上がってるのは、Anxietyのとき人は笑うから」というのがあって「ほほ~!」と感心した。そのかわり眉は急角度で下がっている。これは内心を表してるのかもしれない。
トラウマ民を泣かすシンパイの「凍り付き」シーン
私はシンパイの凍り付きシーンでボロボロ泣いた。ストーリーの流れとしては、心配しすぎて暴走したシンパイが、感情の操作パネルの周りを猛ダッシュしながら激しい操作を続ける。
ライリーはパニック発作になり、シンパイは動きが速すぎるせいで自身の周囲にオレンジ色の竜巻を起こし、すばやくグルグルと回ってるはずなのに見た目は停止状態、という感じになる。
これは思い当たりすぎますね~。心は昂ってて不安でイライラしてソワソワして落ち着かないのに、体はグッタリ停止してる、これは思い当たりすぎる。過覚醒だし低覚醒みたいな。複雑性PTSDとか、鬱とか、学習性無力感とか、こういうことが起きてるのかな?と想像できるシーン。
そこへヨロコビが暴風に逆らいながら必死に近づき、声をかける。シンパイは張りつめた表情で前を見たまま、ポロッと涙をこぼす。そして、顔は前をみたまま瞳だけをおそるおそる、ぎこちなくヨロコビのほうへ向ける。ここの演出すごいよかった・・・。
感情の操作レバーから手を放すように言われ、シンパイはレバーから手を離す。手を離すの、勇気が必要だっただろうなあ・・・。その後もなんやかんやあり、ライリーのパニック発作は収まる。
後日、「混乱したときはマッサージチェアに座りお茶を飲む」というセルフケアを実践できるようになったシンパイ(これは子どもたちへの勉強になるね)。そしてチェアから脳内モニター前に戻ってきたシンパイは「ライリー大好き」と口にするのだ。そう、感情たちはみんなライリーが大好きなのだ。シンパイもライリーを守りたくて暴走したのだ。
私たちの中にある感情も、自分を守るために暴走してきたのだろう。本当にそんなキャラたちが脳内に存在してくれてたらありがたいけど、どうやら、私の頭の中のヨロコビとカナシミは司令室から追い出されたまま行方不明っぽい(ちなみに、前作のインサイドヘッドはそんなお話です)。もうそろそろ別に戻ってきてもらってもいいんだけど?
最近、泣けるようになってきたかもしれない
最近、前より「泣ける」ようになっている。感情が戻ってきてるかもしれないし、年取ってきて涙もろくなってるかもしれない。多分両方。
最近一番泣いたのはネットフリックスの『極悪女王』という女子プロレスのドラマで、アナ雪やインサイドヘッドとは全く雰囲気は違うけど、意外にも大泣きできて良かった。
こういう、しっかり作り込まれてるっぽいトラウマ解放系のコンテンツを見て自分のセラピーにしていきたい。
ちなみに『極悪女王』公開前イベントで、ゆりやんの言葉によってダンプ松本さんが報われるような涙を流す動画、おすすめです。
なんかついに演歌の良さもわかるようになってきたし、やっぱ歳なのかもね。